Fashion信じるおしゃれ
自然と惹きつけられる人には、「スタイル」がある。個性、こだわり、らしさや軸とも言い換えられる「スタイル」とは、一体、どんな風に育まれ、その佇まいに現れるものなのか。それはきっと、その人が、取捨選択を繰り返しながら、たどってきた人生にヒントがあるはず。
本連載では、スタイルがある人の生き方や考え方を取材することで、そのスタイルの裏側を分析。ときに、その人が生み出した「モノ」や「コト」にもフォーカスしながら、多くの人を惹きつけてやまない魅力に迫ります。
初回となる今回、ご登場いただくのは、「マディソンブルー」のディレクター中山まりこさん。これまでの人生の中で、感じたこと、選択してきたことをなぞらえながら、彼女が作り出す「モノ」とともに、そのスタイルを紐解きます。
まっさらなオックスフォードシャツを着ておおらかに笑う、中山まりこさん。幸福な表情から、その1枚を心底愛する気持ちが伝わってきます。2014年春夏、中山さんが49歳のとき、このMADISONシャツを含むわずか6枚のシャツとともに「マディソンブルー」をスタートさせました。
それまでの中山さんはというと、スタイリストとして広告を中心に活躍。常に高みを目指し、全力で働き、全力で子どもと遊んだことしか記憶にない怒涛の30代を過ごします。40代に入りいい意味で力を抜いて仕事をこなせるようになり、初めて自分の生活スタイルに目が向いたのだそう。そして50代を見据えたとき、大きく人生の舵をきる決断をくだしたのです。
「リーマンショックに東日本大震災……、時代の流れとともにさまざまな変化があり、いつしか“このままでいいのか”と疑問を抱くようになりました。子育てもひと段落したタイミングだったし、これからの自分の人生を見つめ直したとき、それまではクライアントや編集者からのサーブ(ニーズ)をいかにいいレシーブで返すかに力を注いできたけれど、サーブを打つ側に回ってみたいという気持ちが芽生えてきたんです。現場のその先にいる、お客様の顔が見たいと強く思うようになって……」。
さらに、日本と海外の2拠点生活を視野に入れはじめ、空間に興味をもったのもこの頃のことでした。
「例えば、レストランって料理だけじゃなくムードも大切ですよね。ある日出かけたレストランで、作り手とお客様がひとつの空間をつくりだしているのを実感して、そういう場を自分もつくってみたいと思ったんです。そうした夢を思い描く先にあったのが、自らブランドを立ち上げて実店舗をつくることでした」。
49歳でのキャリアチェンジ。大抵の場合は、年齢を理由に守りに入ってしまったり、長年築いてきたキャリアを手放すことへの不安がまさってしまう。でも中山さんは、「中途半端な気持ちで仕事に向き合い続けるほうがよっぽど怖かった」と言います。それならいっそ夢以外は手放してゼロから出直そうと思い立ち、冒頭でも紹介したわずか6枚のシャツとともに新たな旅路にでたのです。
「なぜシャツから?」という問いに、「そのとき、自分にいちばんなじむのが、ブラウスでもトレーナーでもなくシャツだったから」と、実に明快な答え。さらに、シャツは中山さんのスタイルに大きく影響を及ぼしたアイテムのひとつでもあるのです。
「20代前半、NYを訪れたときに出会った女性たちのファッションにカルチャーショックを受けました。大胆にデコルテを開けてシャツを着崩すアッパーイーストのマダムたち。カジュアルだけど品のあるスタイルのなんとかっこいいこと! 彼女たちが醸し出す色っぽくも洗練された空気感に感動し、大人が楽しめるカジュアルがあることを知りました。それが私のスタイルの原点でもあり、マディソンブルーの礎になっています」。
さらに、これまでたくさんの服を着てきた中山さんならではの感性も服づくりに生かされています。
「古着屋で買った3900円のTシャツにデザイナーズブランドのジャケットを羽織る、私にとってはそれが日常。ミリタリーアイテムだって昔から大好きです。マディソンブルーの店頭にHello Tシャツから接結コートまで幅広いジャンルのアイテムが並ぶのは、私が今まで通ってきた服の歴史が反映されているから。ここでは、そういうリアルなファッションを提案したかったんです」。
その提案が着こなし方にまで及ぶことは、中山さんのシャツスタイルを見れば手にとるようにわかります。とにかく飾らない。シャツは生真面目なもの、なんて通例はどこ吹く風。洗いざらしをそのまま素肌に纏い、着るほどに風合いを増すコットンの質感を楽しむように胸元を開け、袖をクシャッとたくし上げ、裾をラフにアウトする。「こうやって着るのがこの素材を、このデザインをいちばん素敵に見せるのよ」と、自身のスタイルをもって私たちに語りかけているかのよう。
中山さんは、今まで出会った素敵な女性たちをとり囲む空気感や、スタイリストとして培ってきた経験や知恵、センスを「マディソンブルー」というブランドに映し、私たちに共有してくれているのです。
むろん、このシャツには、中山さんと同じような着こなしができるよう、パターンやディテールにプロならではの知恵が散りばめられています。
ブランドデビューとともに誕生したオックスフォードシャツ。ハンサムなアイテムと捉えられがちですが、中山さんのなかでは「いちばんフェミニン!」なのだそう。NYで目が釘づけになったあの光景――ハンサムなシャツを女性が着るからこその色っぽさに胸を打たれ、今や中山さんにとっても「マディソンブルー」にとっても永遠のキーアイテムとなりました。そのオックスフォードシャツの新たな提案をデビュー以来初めてしました。きっかけは、意外にもバーキンを手に入れたことでした。
「バーキンを手にしたその日から、服のテイストがさらにカジュアルになったんです。なかでもオックスフォードシャツとバーキンの組み合わせが最高に可愛くて、頻繁に身につけているうちにウエストのくびれが気になってきて……。もう少しボーイッシュなほうがしっくりくるなぁと思い、ウエストラインをストレートに変えてみたら大正解。気分にピタッとフィットしてくれました。既存のものはタックイン前提だったのに対し、こちらのシャツはタックアウトしてもバランスよく決まります。そういう意味では、以前より自由度がアップしましたね。3サイズ展開のなかから、自分のスタイルに合うものを選んでみてください。私はいちばん小さい00サイズを細身のパンツやバレエシューズと合わせて楽しんでいます」。
一見シンプルなシャツに隠された仕立ての妙。誰もが“こなし上手”になれる、まさに名品です。デビューから7年、多くの女性たちを魅了してきたアイコンシャツの最新型を見逃さないで。
次回は、発売されるやいなや話題となった「パールネックレス」をフィーチャーしながら、その裏にある、中山さんの想い、そして、中山さんの芯の通った「スタイル」をお届けします。お楽しみに!
Photograph /Yoko Nakata(MAETTICO)
Text / Yoko Enomoto(TENT)
Edit /Ayako Suzuki(HRM)
※本ページに掲載している価格は、すべて税込みになります。