Fashion信じるおしゃれ

【My life , My style】マディソンブルー 中山まりこさん vol.2

自然と惹きつけられる人には、「スタイル」がある。個性、こだわり、らしさや軸とも言い換えられる「スタイル」とは、一体、どんな風に育まれ、その佇まいに現れるものなのか。それはきっと、その人が、取捨選択を繰り返しながら、たどってきた人生にヒントがあるはず。

本連載では、スタイルがある人の生き方や考え方を取材することで、そのスタイルの裏側を分析。ときに、その人が生み出した「モノ」や「コト」にもフォーカスしながら、多くの人を惹きつけてやまない魅力に迫ります。

前回に引き続き、ご登場いただくのは「マディソンブルー」のディレクター中山まりこさん。当回では、ブランド立ち上げ当初からもち続けるものづくりにおける信念、さらに、2020年12月に発売し話題を呼んだ新名品、パールネックレスの誕生秘話にクローズアップします。

選択肢が多い今だからこそ、

信じるべきは、自分のなかに根ざす価値観

1980年代、写真家ピーター・リンドバーグが撮影したVOGUEの誌面など、雑誌の切り抜きを額に入れて飾っていたという中山さん。ファッションもアートだったこの時代、そんな1枚に私も関わりたいと思ったのがスタイリストを志したきっかけ。

時代の流れとともに、アパレルの販売方法やアプローチの仕方は多様化の一途。ターゲット層を絞らず大量につくって生産コストを下げたり、卸先からのニーズにどんどん応えて顧客層を拡大していったり、ECシフトが急進したり……。かくいう「マディソンブルー」も、4シーズン目を迎えたとき、“大きいサイズをつくってほしい”というリクエストがあったのだそう。しかし中山さんは首を縦に振らなかった。なぜ――? 

「それを飲んでしまうと、自分の価値観が揺さぶられてしまうと思ったから。“こうゆう人にこう着てほしい”、そのメッセージを伝え続けなければいけないと思ったんです」、とキッパリ。さらにこう続けます。

「実はもともと、そんなにアイテム数を増やすつもりはありませんでした。不特定多数にサーブをバンバン打つのではなく、魂を込めた一球を大事に受けてくださる方に向けたブランドに育てたかったから。私の頭の中には明確に“理想の女性像や着こなし”があって、マディソンブルーはその価値観をお客様と共有する場にしたいと思っていたんです」。


アパレル業界のルーティーンに囚われない。

信頼する作り手たちとともに道を切り開く

まるで開拓者のように……

当初は多くをつくらなくていいと思っていた中山さんですが、ディレクターとしてつくり手と直に接するうちに、気持ちに変化が。彼らの感性に刺激され、創作意欲に火がついたのです。

「コレクション数がこんなにも増えた理由は、いい生地メーカーやパタンナーとご縁があったから。こんな方々がいるなら、こうゆうものも作ってみたい!と、どんどんイメージが膨らんでいったんです」。

例えば、男性パタンナーがつくるスカートの面白さを知った日。

「私はボトムスをつくる上で、女性特有のボディラインを強調する必要はないと思っていて。だから無理に丸みを際立たせなくてもいいし、ウエストにくびれをつける必要もない。そういう意味でも、男性の感性でつくるスカートが見てみたかったんです。実際に男性パタンナーにお願いしたスカートが完成したときの、面白さといったら! 女性らしさのないソリッドな感じが、逆にすごく色っぽくて、新しい発見でしたね。それからというものずっとその方にお願いしています」。

さらに、イタリアの生地メーカーとの出会いも衝撃的だったのだそう。

「昔ながらの織機でゆっくりと時間をかけて織られた生地はどれも、母のクローゼットに並んでいた洋服を思い起こさせるものでした。私、それを見て大興奮してしまって(笑)。実は、それが、マディソンブルーでドレスをつくることになったきっかけ。それまで日本の生地メーカーでピンとくるものが見つからず、いっそリスペクトするメンズの生地メーカーが手がけるコットン系だけでずっとやっていこうかな……と思っていた矢先の運命の出会いでした」。

こんなふうに、中山さんのものづくりのスターターはつくり手やメーカーということがほとんど。頼もしいつくり手たちとの出会い、そして面白いと思ったら前例がなくても飛び込む中山さんの無邪気なまでの好奇心が「マディソンブルー」のスタイルを支えています。

何気ないカジュアルと自然体で楽し

「普段着の」本格パール

2年以上前から愛用しているという「マディソンブルー」のトレーナーにパールネックレスという気負わないデイリースタイル。テラコッタ肌にパールの優美なつやが映える。チャームもさりげなくサイドに逃し、“きれいに揃えすぎない”のが中山さん流。手元は少しメンズライクに振って、パールとロックなニュアンスの調和に惚れ惚れ。

2020年12月に発表されたブランド初のパールジュエリー「Gri Gri(グリグリ)」もまた、とあるお取引先から「一緒にやりませんか?」と声がかかったのがことの始まり。

「パールはファーストコレクションのときからルックのスタイリングに使ってきた、私にとって欠かせないもの。いつかうちのブランドでも……と心に秘めていただけに、お声がけいただいたときは“きたーー!!”って(笑)。思いが強い人のところに出会いは転がってくるんだなぁとしみじみ思い、即決でしたね」。

「マディソンブルー」のルックを振り返ってみると、シンプルなパールを、オックスフォードシャツやGジャン、ミリタリージャケットetc.…、飾らないカジュアルにサラッとつけたこなれ感がなんとも素敵。今回のネックレスはまさに、“特別の日のためじゃない、日常のパール”という中山さんの理想を包括した唯一無二のデザインに仕上がっています。

パールネックレス ¥429,000 ゴールドのチャーム¥176,000/ともにマディソンブルー

「パールが鎖骨に沿ってしなやかに動いたら楽しいなと思って。少し長めの45cm、さらにパールとパールのつなぎ目をあえて少し緩くして、動きがでるようにしました。色味にもこだわりましたね。通常はピンクやゴールドがかったものが多いのですが、シャツ、デニム、トレーナーに似合うのは絶対グレイッシュな色味だと思ったんです」。

好きな位置に装着できるチャームも独創的。「M」と「B」の文字が入ったリバーシブル仕様にも中山さんの遊び心が光ります。

パールネックレス、ゴールドのチャーム/上の写真と同じ シルバーのチャーム¥66,000/すべてマディソンブルー

「メーカーさんからはクラスプ(留め具)として紹介されたのですが、“それよりもパールの好きな場所に自由につけられるようにしたら可愛いんじゃない?”と提案してみたんです。デザイナーさんは驚かれていましたけど(笑)、その思いを見事に実現してくれました」。

青春時代、Tシャツや革ジャンに長いフェイクパールを何連にも重ねづけしていたという中山さん。「ゆくゆく80cmぐらいのロングネックレスも作りたい」と、当時の記憶に、そしてそのネックレスを手にするであろう誰かの姿にも思いを馳せます。

「ブランドを始めて幸せだなと感じるのは、自分のつくったものが誰かの手に渡り、そこからまたストーリーが始まること。また、ものをつくる側になって初めて地方の工場を訪れ、つくり手の方々と触れ合う機会に恵まれたことも嬉しかったですね。このブランドを始めたことで、モノも私自身も、予期せぬ方へ転がされていくことが楽しくて仕方ないんです」。

そう軽やかに笑いながら、中山さんは持ち前のしなやかな柔軟性と瞬発力で新しい扉を開き続けていくのです。

2回にわたってお届けしてきたインタビュー、いかがでしたか? 中山さんの1本筋の通った生き方からは、自分を信じる強さ、ファッションを愛する熱い思いが伝わってきます。つくっている本人が誰よりも楽しみながら、手を変え品を変え、私たちに新鮮な景色を見せてくれる。その揺るぎない世界観から今後も目が離せません。

Photograph /Yoko Nakata(MAETTICO)
Text / Yoko Enomoto(TENT)
Edit /Ayako Suzuki(HRM)