Fashion信じるおしゃれ
知らず知らずのうちに頑なな考え方に陥りやすくなっていたり、ふさぎこみがちになっていたり……。そんな自分に気づいたら、”セルフリリース”のタイミングかも。エディターの山下美咲さんがリポートしてくれる、心身の自由な開放をテーマにした旅。第2回は、悠久の自然を誇るタスマニアと、オーストラリアのトレンドが集まるシドニーから、自由で楽しい参加型のアートシーンをお届け。
雄大な山々や固有種の動物たちなど、大自然の持つ魅力が前面に押し出されることの多いタスマニア。だけど、こと「MONA(モナ)」に関しては「世界の中でもめずらしいから、タスマニアに来たなら行っておくべきだよ!」と、現地の方のコメントが。
聞けばこの地出身の大富豪が、個人所有のコレクションを一般に開放すべく私財を投じて建てた美術館が「Museum of Old and New Art」、通称「MONA」なんだとか。屋内展示は3つものフロアに及ぶ地下空間に展示され、テーマは“性と死”。そして、かの大富豪が裕福になった理由とは……学問として研究していた数学を極めた結果、ギャンブルで大儲けしたから、だとのこと(驚)。なんというか、いろいろ強烈!
とはいえ、たしかに性やエロスをテーマにした作品もあるものの、実に多彩なアプローチのアートが並んでいて、個人的には軽い気持ちで飽きずに楽しむことができました。古代のジュエリーやオリエンタルな雰囲気を醸す美しい彫刻作品から、人間の視覚認識を錯覚に陥れてしまう光の部屋まで、規模も見せ方もさまざま。写真の作品は、ヒトの消化を機械で完全再現したアートだそうで、数時間ごとに実際に排泄が行われるんだとか。
館内の作品にはいっさい説明がなく、専用のスマホアプリをダウンロードしてチェックする仕組み。そのためもあってか、アート好き富豪の巨大な邸宅に迷い込んだかのような感覚になれて、気分はワンダーランド!
美術館の広大な土地の中には、地下に広がる展示室以外にも、屋外展示や飲食スペースが。トランポリンやテニスコートまで完備していて、タスマニアの美しい海を眺めることもできます。イベントスペースになりそうなステージもあり、タスマニア在住の人は無料で入れるとのことだから、ローカルの人々がゆったり週末を過ごすような場所なのでしょうか。創業者が、自分の大好きなアートを通して地元とポジティブな形でつながろうとしているんだな……と、微笑ましくも思えます。
こちらの「The Source Restaurant」では、この施設で随一の眺望を誇るアートのような美しい空間の中で、タスマニアならではのフレッシュなファインダインが楽しめるのでおすすめ。季節と天気が合えば、本物の苔とハーブが生い茂るテラス席の“リビング(生きている)テーブル”で食事できるそう。私が訪れた際は室内に着席しましたが、それでもビスポークのインテリアがアーティスティックで、とても居心地よかったです。完全予約制なので、訪れる際は必ず事前に連絡してくださいね。
Mona, Museum of Old and New Art
https://mona.net.au
世界中から集まった現代アートに触れたなら、タスマニアらしさが感じられるアートにも触れてみたくなるもの。この地の歴史も含めたよりオーセンティックなアートが鑑賞できるのが、タスマニア北部のロンセストンという街にある「QVMAG(キューヴィーマグ)」。こちらは「Queen Victoria Museum & Art Gallery」の略だそう。タスマニアの美術館は、本名が覚えられないほど長いものばかりです(笑)。
1842年に設立されたという歴史を有し、オーストラリアでも最大級。アートのみならず歴史や自然科学に関する展示品も所蔵していて、旅行者はもちろん地元の小学校の社会科見学などにもよく使われる、地域に親しまれた由緒ある美術館だそう。
驚いたのが、私が訪れたとき、日本をテーマに活動するアーティストの企画展示が行われていたこと! タスマニア出身のトニー・スミバートさんは御年70歳を超えるアーティストで、もともと18〜19世紀イギリスの水彩画家であるウィリアム・ターナーの専門家だったところ、日本の合気道に魅せられ、長らく修行を積んで活動。西洋と東洋の精神を融合し、故郷タスマニアの風景を描きつづけているんだとか。
ほうきを使って描かれたその繊細な風景画に、遠いタスマニアの地で日本の文化や精神に魅せられ、これだけの作品をクリエイトしている方がいらっしゃるんだな……と、なんだか背筋が伸びる思い。実際オーストラリアでは、日本好きの人が多かったり、レストランで日本食の要素が取り入れられていたりと、思いがけず“日本”を感じることが多くありました。こんなところでも、大きな世界の中で、日本人として生まれた自分のあり方を考えさせられますね。ちなみに現在、「QVMAG」でのトニーさんの企画展は終わってしまっていますが、彼のアトリエ兼ギャラリーには遊びに行けるようなので、私もぜひ次の来訪時は! と考えています。
Smibert Studio
www.smibert.com
歴史や自然科学もカバーする「QVMAG」には、タスマニアのアボリジニに関する常設展示も。さらにタスマニアの空について学べるプラネタリウムなどもあるようで、じっくりゆっくり堪能したいと思える場所でした。
Queen Victoria Museum & Art Gallery
www.qvmag.tas.gov.au
さて、お次は場所を移してシドニーへ。かつての工業地域が改装され、アーティストたちが集うヒップな街へ生まれ変わったエリアがチッペンデールです。エッジィなギャラリーやストリートアート、レストランやパブを訪れる人たちでいつも賑わっているそう。ちょっと路地に入っただけでも、こんな雰囲気あるロケーションを発見。
なんでもない建物にも素敵なウォールアートが描かれていて、誰もがフォトグラファーを気取ってしまいそうな街です。
なんと、この街にもたったひとりのコレクターによって集められた、前衛的な現代アートを展示するギャラリーが! その名も「White Rabbit Gallery」は、中国と台湾から集めた750人近いアーティストたちの、3000点近くにのぼる作品コレクションを紹介するための場所。入場無料とは思えない、充実したボリュームが特徴です。インタラクティブに楽しめる作品も多く、こちらは「スーパーマリオ」のようなチャイニーズっぽいデザインのゲーム画面が壁一面に映し出され、実際に遊ぶことができるという作品。
4階建ての建物には、その空間を最大限に利用したアートたちが所狭しと並んでいます。プロジェクションマッピングを使って山と海の雄大さを表現した作品の部屋は、メディテーションにぴったりな雰囲気が。作品は年に2回、大規模な棚替えを行って展示内容を変更しているそう。訪れるタイミングでオープンしているかどうか、事前に確認するのがベターかも。1階に併設されている、中国茶が楽しめるカフェも人気だそうだから、街歩きに疲れたときのひと休みの候補に。
White Rabbit Gallery
https://whiterabbitcollection.org
これだけさまざまなアートを観ていると、自分の家にも大切に愛でられる素敵なピースがあったら……なんて想いが、ちょっぴり頭をよぎります。そこで訪れたいのが、同じくチッペンデールにある「Michael Reid Sydney」。オーストラリアとニュージーランドのアーティストたちによる、洗練されたコンテンポラリーアートを扱う美術商です。絵画と同じく写真作品も多く扱っているから、旅のお土産に思いきってアート購入を考えている人はぜひここへ!
先住民によるアボリジナルアートもここにあるものは洗練された色使いで、都会的な雰囲気。自分の部屋にリアルアートを飾るって、想像するだけでワクワクしますよね。もちろん鑑賞だけでも快く応じてくれるので、オーストラリアで最先端のモダンアートを体感したいときは、ぜひ足を伸ばしてみてください。
Michael Reid Sydney
https://michaelreid.com.au
アートとは、さまざまな“表現”の集合体。旅先であらゆる手段や形に落としこまれた“美的表現”に触れていると、自分自身のこれまでの価値観や考え方が静かにアップデートされていくのを感じます。そうして自分の中のステレオタイプを上手に解放してあげることで、自らの想いやヴィジョンを上手にアウトプットする力を取り戻せるのかもしれませんね。
次回は、8月17日(水)にUP予定です。お楽しみに。
Cooperation / Tourism Australia
Photos &Text / Misaki Yamashita
【関連動画】
■自然を学びいただく、おいしいタスマニア【心身を解放する、セルフリリース旅 1】
profile
山下美咲
旅好きエディター。翻訳小説の編集を経たのち、モード誌にてビューティー、ファッションの世界へ。旅好きが高じて『AMARC magazine issue01』では最旬の東京ガイドを、そして『AMARC magazine issue02』は佐賀と長崎の「触れる旅」企画ページを担当。冒険心にあふれるアクティブさを貫きつつ、モードなおしゃれで装う旅スタイルを模索中。
Instagram: @mskymst