働き方の多様化が進んだ今、仕事服はどうあるべきでしょうか?――そんな問いに答えてくださった、服飾ジャーナリストの山本晃弘さん。vol.1では「2020年は自分ファッション元年」と、なんともワクワクするようなフレーズでこれからの仕事服のあり方をお話しくださいました。vol.2となる今回は、より具体的にビジネスシーンでのファッションについてお話しいただきました。
Let’s talk about
“new” business wear
新しい仕事服のキーワードは
「2steps forward 1back」
3歩進んで2歩下がる……
新しい仕事服には
やり過ぎない遊び心を
ビジネスカジュアル――そんなフレーズを耳にしたとき、みなさんはどんなファッションをイメージするでしょうか? スーツである必要はないけれどジャケットはマスト、そう感じる人もいるでしょうし、ジャケットだって不要では?と考える人もいるはず……。そんな、新しさゆえの難しさを、山本さんは〝2steps forward 1back“という言葉で定義してくださいました。
「日本語で言うならば、3歩進んで2歩下がる、まさに歌にある通りです。オフィスカジュアルと聞くと、つい、自分らしさやカジュアルさを優先して、先走ってしまいがち。ただ、あくまでもビジネスシーンですから、進み過ぎた部分を1歩引き返しましょうよ、ということなのです」。例えば、デニムやチノパン、コーデュロイのようなボトムスを、仕事服として選んだ場合、スニーカーを合わせてしまうのは、「“休日のお父さん”でしかないですよね(笑)」と。進み過ぎた分、一歩引き返すために、山本さんがセレクトされたのは、イギリスの老舗靴ブランド「トリッカーズ」のシューズ。通常、男性がスーツに合わせるシューズに比べると、丸みを帯びて柔らかな印象です。
「一見すると、ビジネスシューズに見かけるようなデザインですが、実は靴のアッパーの飾り(メダリオン)は、もともと、悪路を歩く際、靴の水はけをよくするために作られたもの。また、丸みをおびたデザインも、ビジネスシーンにやり過ぎではないカジュアルさを添えてくれると思います」
無地×ハイゲージ×クルーネックの
ニットがビジネスシーンの
新ワードロープに
これからの季節は、ビジネスシーンでも活躍度が高くなるニット。さまざまなデザインがあるなかで、キーワードとして挙げられたのが、“無地×ハイゲージ”。
「柄ニットや、編み地のざっくりとしたローゲージニットは、ビジネスウェアとしては2ステップ進みすぎ。1ステップバックとなると、無地のハイゲージがいいですよね。ただ、その先の選択肢として新たに出てくるのが、首元のシルエット。Vネックなのか、クルーなのか、はたまたタートルなのか……。これに関しては、ぜひ女性の意見を聞いてみたいです」(山本さん)。
そんな問いに対し大草が提案したのは、首元が丸く詰まったクルーネックタイプ。
「名刺交換など、ビジネスシーンでは、意外と前屈みになるケースって多いと思うんです。そのとき、Vネックだと胸元が見えてしまわないか気になってしまうもの。わざわざ胸元を押さえるのも煩わしいので、ビジネスシーンではクルーネックのほうがいいのかなと思っています。もちろん、リモートワークの日などは、Vネックという選択肢があってもいいですし、カジュアルな印象の強いタートルも、今年は、透け感のある柔らかい素材のものもたくさん出ているので、ジャケットの下に合わせたりすると素敵ですよね」(大草)
“きちんと見える”というビジネスシーンの前提に加え、一緒に仕事する相手が不快に感じたり、目のやり場に困ってしまうことがないよう配慮すること――そんな周りを慮る気持ちも、ワードローブを選ぶひとつの基準になりそうです。
仕事服はプレゼンテーション。
こだわることが
コミュニケーションの糸口に
今回の対談で、山本さんがコーディネイトの主役に抜擢したのが、ニット素材のネクタイでした。ビジネスウェアの象徴ともいえるネクタイをあえて取り入れつつも、遊び心を潜ませる。そんな装いに、新しい仕事服のヒントが隠れていました。
「例えば、今日のようなジャケットスタイルに、光沢感のあるネクタイはやっぱり堅苦しい。また、バーガンディのようなカラーも、ブルーやネイビーをベースとした今日のスタイルにはネクタイばかりが目立って“ネクタイおじさん”に……(笑)。男性はアイテムが少ない分、ネクタイやVゾーンは印象を変える大切な要素。だからこそ、これからは、より素材や色を吟味してほしいですね」
ビジネススタイル=スーツという、いわば画一的だった男性の仕事服が、これからはもっともっと、ドラスティックに変わっていく気配……。そんなこだわりは、会話のきっかけになったり、話を盛り上げたりと、ビジネスシーンでのコミュニケーションを、より鮮やかに、より自由に彩る糸口になるのかもしれません。
「人間は、装うことで人間になった。そう考えるとファッションには、もともとコミュニケーションツールとしての力があったのです。今日は、どれを着ようか――そんなふうにワクワクしながら仕事服を選ぶことは、仕事に対するモチベーションを高めることにも繋がっていくはずです」(山本さん)。
柄on柄も、あり!
これからの季節はロンTも!
山本さん曰く、柄物はその人の性格や気持ちを表すもの。だからこそ、コミュニケーションを楽しむためにも、もっと大胆に取り入れて欲しい。とはいえ、やりすぎは禁物です。2steps forward 1backのセオリーで考えてみると……、
・チェック×ドットなど柄違いを合わせる際は、同系色を選ぶこと
・チェック×チェックなど同じ柄で揃えるときは、色を同系色のグラデーションでまとめて、柄のピッチを変えるくらいがおすすめ
また、これまでは敬遠しがちだったTシャツも、新しい仕事服のワードローブとして、ありだとか! 「ただし、ロゴTシャツなどはNG。また、柄やキャラクターなどメッセージ性が出てしまうものもビジネスシーンではやりすぎです。となると、やはり無地がベスト。また、これからの季節はロングスリーブのTシャツという選択肢も。特に襟に高さのあるものなどは、ニットの延長のように使えてドレス感が高まります」(山本さん)
男性目線の新しい女性の仕事服とは?
男性に比べて、アイテムやスタイルのバリエーションが豊富な女性のワードローブ。その自由度の高さは、時として、人となりを曖昧にしてしまうこともあるのだとか……。
「この前はジャケットでかっちりした印象だったのに、今回はロマンティックな雰囲気――そんな風にスタイルのギャップが大きいと、「この方はどんな方なのだろう?」となってしまいがちです。そういう意味では、ご自身の軸となるカラーやスタイル、アイテムのようなものを持つと良いですよね。例えば、大草さんであれば、パールのアクセサリーや高品質のニットのような……。ご自身がどんな人間か読み取ってもらえるツールを持っていると、仕事相手にも良い印象を植えつけられるのではないでしょうか」。
自分の軸を持つということは、クローゼットのわかりやすさにも通じます。それは、きっと、仕事服を選ぶ際の効率化にも繋がっていくはず。
ファッションは、プレゼンテーションであり、服には自分が映るもの――働き方が刻一刻と変化する時代、仕事服と一緒にどう働いていきたいか、どう生きていきたいか、そんなことを一緒に考えていっても良いのかもしれません。
【COLUMN】
ボトムス、ソックスと靴のバランス
「 Lゾーン」の作り方
対談の途中、大草が、どうしても山本さんに聞きたくなったのが、男性のファッションにおけるソックスの選び方。おしゃれは足元に宿る――そんな言葉があるほどに印象を左右するパーツですが、ここを山本さんは「Lゾーン」と定義。
「ソックスは素材感と色が大切。たとえば、ボリューム感のあるシューズには、ソックスもやや肉厚な素材を。また、色については、縦のラインを強調したほうが脚が長く見えるので、ボトムスとワントーンで仕上げるのが良いですね。Vゾーンと同様に、色や柄も2色に止めるくらいがいいと思います」とアドバイス。
一方、スカートというワードローブがある女性にとっては、ソックスやタイツはボトムスの一部。これまで大草は、女性の場合、ソックスやタイツは靴の色に合わせたほうが、脚が長く見えるとお伝えしてきました。
「同じLゾーンでも、スカートというアイテムでLゾーンが分断される女性とは、やっぱり考え方が少し違うんですよね。それがまた、ファッションの面白い部分です」(山本さん)。
おしゃれは、微差に宿る――仕事という、制約のあるシーンでこそ、小さな気遣いやこだわりが、大切になっていくのかもしれませんね。
TERUHIRO YAMAMOTO’S STYLE
ジャケットの下に合わせたのは、爽やかな印象のペールブルーのシャツとニットタイ。トゥにぽってりとした丸みのあるトリッカーズのシューズが、“頼れる先輩”、“信頼できるビジネスマン”にふさわしい、親しみやすく上品な印象を引き立てます。
NAOKO OKUSA’S STYLE
対談でも話題になったクルーネック×ハイゲージのグレーのニットに、テラコッタカラーのウールパンツ、ブルーのスエードパンプスでコーディネート。華やかな色使いでありながら、まとまりがあるのは「温かみのある素材」という共通項があるから。
前編、後編と2回にわけてお送りした新しい時代の仕事服のあり方、いかがでしたでしょうか? 人生のなかで、たくさんの時間を費やす仕事――自由に、あなたらしく働くための仕事服、生き方のヒントになれば幸いです。AMARCでも、新しい仕事服をどうみなさんにご提案していくかは、まだまだこれから。ぜひ一緒に、新しい働き方を、新しい仕事服を楽しんでいきましょう!
profile
山本晃弘
(やまもとてるひろ)
服飾ジャーナリスト。『AERA STYLE MAGAZINE』エクゼクティブエディター/WEB編集長。『メンズクラブ』で編集者のキャリアをスタートしたのち、『ELLE a table』(現 ELLE gourmet)『GQ JAPAN』『AERA STYLE MAGAZINE』の3誌を創刊。2019年にヤマモトカンパニーを設立し、創刊より11年間つとめた『AERA STYLE MAGAZINE』編集長を退任し現職に。編集、執筆、広告制作などを行うかたわら、ビジネスマンや就活生に着こなしを指南する「服育」アドバイザーとしても活動中。執筆著書に『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』がある。
movie/Kanon Okamoto、
Koki Ishikawa(TO NINE inc.)
Text / Mika Hatanaka
Edit / Ayako Suzuki