最近、鬱屈した世の中の空気の影響で、気づかぬうちに自らを押さえこんでしまっていませんか? そんなときにおすすめしたい、自身を解き放つ旅のヒントを、旅好きエディターの山下美咲さんが教えてくれました。
山下さんが訪れたのはオーストラリア。全4回でセルフリリースにつながる体験やおすすめのスポットをお届けします。まずは、訪れるのが念願だったというタスマニアから、大自然を誇るこの地ならではの食体験を。

AMARC読者のみなさん、こんにちは! エディターの山下美咲です。
タスマニアは、広大なオーストラリア大陸の南に浮かぶ、南極に近い島。豊富な自然で知られ、なんと州の約30%が国立公園に指定されているとか。とはいえ、実は正直“タスマニアンビーフ”と“タスマニアンデビル”しか予備知識になかったことをここに告白します(笑)。
実際に訪れてみてわかったのは、やはり自然が豊かなだけあり、空気がおいしくて農業が盛んだということ! 本土よりちょっと寒くて農産物がおいしいところは、日本人にとっての北海道に似ているのかも。変わりやすい天気や不確定な要素を「ここはタジー(タスマニアの愛称)だからね」と笑い飛ばしてしまう、“なんくるないさ”的精神も愛おしい。
コロナ禍を経て各地が分断され、世界的にも地産地消の動きに拍車がかかったことと思いますが、この地はそんなムーブメントの先駆け的存在。畑から採れたものをそのままキッチンへ運んで調理し、お客へ提供する“ファーム トゥ テーブル”も、もちろん楽しめちゃうのです。
味も空間も洗練された、
何度も訪れたくなる場所

特にスタイリッシュで、ぜひまた訪れたいと思ったおすすめレストランが、こちらの「The Agrarian Kitchen」。もともとはオーガニックファームを併設したクッキングスクールから始まり、今ではレストランとしてお客に料理をふるまうようにもなったそう。

古い建物を改築したシャビーシックな雰囲気をベースとしながら、ハイセンスな北欧テイストのインテリアやドライフラワーが飾られ、なんとも居心地のよい空間に。“地産の旬の食材にこだわることでこの地本来のよさを感じてもらう”というモットーから、地元の農家や漁師たちとのコミュニティはもちろん、手造りの薪オーブンとグリルを使った調理法や、余分な食材を活用した保存調味料づくりにもこだわっているとあって、安心感も抜群。

オーストラリアの食事はどれもポーションが多め傾向にあるのですが、こちらのお料理はちょうどいいくらいなのも、日本人女性にはありがたい! 紫キャベツみたいな見た目の赤チコリや、カブに似たコールラビなど、日本では耳慣れない野菜にありつけるのも旅の醍醐味です。
どの料理もハズレなくおいしかったのですが、私のイチ押しはブッラータチーズ。トロットロでほどよく食感もあり、フレッシュさが瞬時に口内へ……。その瞬間はまさに、至福。このブッラータチーズを食べに、またこのレストランを訪れたいくらい! さらに、ファーム トゥ テーブルはドリンクにも。カクテル類やハーブティーへオリジナルのシロップや畑のハーブなどが用いられており、ドリンクまでスタイリッシュで美味なんです。
実は料理教室のほうはコロナ禍でクローズしているそうなのですが、2022年後半には新たにオープンする予定だそう。これからはレッスン見学も旅のプランのひとつになるかも!
The Agrarian Kitchen
https://theagrariankitchen.com
冒険気分で楽しみ学べる、
食のトレジャーハント

もうひとつは、里山の食材を収穫するところから始まる体験型の「Sirocco South」。タスマニアの自然の中に足を踏み入れ、季節に合わせて葉物野菜やアスパラガス、キノコをハンティングするスタイルがユニーク。収穫用のナイフをひとり1本手渡され、オーナーのミックさんにレクチャーを受けます。

オーストラリアは南半球にあるため、日本とは季節が反対。私が訪れたのは秋の終わりだったので、ちょうどキノコのシーズンでした。松林の中ではじめは苦戦しつつも、足元にポコポコと顔を出したかわいいキノコたちを発見するワクワク感が、やがてやみつきに。

大きなカゴいっぱいにキノコを収穫したら、ミックさんが森の中にしつらえてくれたランチテーブルへ。アウトドア感たっぷりの簡易キッチンが用意してあり、この地で採れた野菜や海藻を使った6皿ものランチコースを提供してくれます。

中には、先ほど収穫したものと同じ種類のキノコも! 野生の食材は念入りな下処理が必要なため、自分が収穫したものをそのまま食べるのはなかなか難しいそうで、事前に準備したものを調理して出してくれます。それでも、しっかり生態を教えてもらい採取したキノコを口にする感動はひとしお。
しかも料理に合わせて、近くのワイナリーである「Bream Creek Vinyard」のワインをサーブ。このあたりが、さすがオーストラリアです(笑)。森の木々に囲まれつついただくデイキャンプさながらのビッグランチは、貴重な経験になること間違いなし。キッズ連れも楽しめそう。
Sirocco South
https://siroccosouth.com.au
“ファーム トゥ ホーム”が叶う
マーケット

実はオーストラリアでは、ファーマーズマーケットがとても盛ん。週末の朝には街の各地でマーケットが開かれ、地元の生産者から新鮮な食材を手に入れられるのです。その文化はもちろんタスマニアにもあり。私は土曜の朝の「Harvest Market Launceston」へ遊びに行ったのですが、大自然が可能にしたその食材レベルの高さたるや!

例えばこちらの「The Tasmanian Juice Press」は、オーストラリアの食材を100%使用し、地域のコミュニティに密着したコールドプレスジュース屋さん。「アップル」や「オレンジ」といった果物ベースのものに加え、活力をアップさせる「リブート」や免疫機能を高める「イミューン」など、効能でも選べるのが楽しい!
ジュースにするため使った野菜や果肉の残りは地元の農家に渡して家畜のエサにしたり、パン屋さんのお菓子に混ぜてもらったりしているそう。また空きビンを1ドルで回収してもいるそうで、スモールビジネスながら徹底してサスティナブルであるところにも好感が。なにより新鮮でエグみとは無縁のテイストが抜群で、ひっきりなしにお客さんが訪れます。大きいビンで売っているので、旅程のはじめのほうに組み込むのがおすすめ。
The Tasmanian Juice Press
https://tasjuicepress.com

さらにさらに……お菓子みたいに奥行きある香りと味わいで、ボトルの美しさもピカイチなのが「New Norfolk Distillery」のラム。クラフトビールやジン、メスカルのあと、欧米ではラムのブームが静かに巻き起こっているとか。まったりと濃くスパイスの効いた味わいは、甘党さんへのお土産にも。普段は予約しないと見学できない蒸溜所の造り手さんにも直接話を聴けるのが、ファーマーズマーケットの醍醐味ですね。
食材の宝庫であるタスマニア。ほかにもプラントベースのチーズや、オーストラリアならではのハーブを使ったハチミツなど、おもしろい&おいしいものをたくさん見つけましたよ!
New Norfolk Distillery
www.newnorfolkdistillery.com
心身の源となるのは、やっぱり“食”。それが大地とダイレクトにつながっていて、関わる人々の真摯な手を経て自分に届いているのだということは当たり前だけれど、ともすれば忘れてしまいがち。“おいしい!”を追いかけていくと、地球につながる……そんな素直な気づきが、凝り固まった意識を優しく豊かにリリースしてくれるのです。
次回は、タスマニアとシドニーのアートシーンをお届け。8月13日(土)にUP予定です。お楽しみに。
Cooperation / Tourism Australia
Photos &Text / Misaki Yamashita
profile

山下美咲
旅好きエディター。翻訳小説の編集を経たのち、モード誌にてビューティー、ファッションの世界へ。旅好きが高じて『AMARC magazine issue01』では最旬の東京ガイドを、そして『AMARC magazine issue02』は佐賀と長崎の「触れる旅」企画ページを担当。冒険心にあふれるアクティブさを貫きつつ、モードなおしゃれで装う旅スタイルを模索中。
Instagram: @mskymst