新しい景色を重ねながら、人生をともに歩んでくれる腕時計。ときに灯台のように未来を照らし、ときに伴走し、ときに初心に帰らせてくれる――そんな風に、私たちの毎日を支えてくれる腕時計は、その選び方にも個性や知性が滲み出るもの。
そこで、本特集では、12人12様の腕時計にまつわるストーリーを、手元のスナップとともにお届け。
6人目は、服飾ジャーナリストの山本晃弘さん。大草の『ハースト婦人画報社』時代の先輩であり、仕事服特集や手土産特集にもご協力いただいたことのある山本さんは、腕時計に関しても造詣が深く、2000年代初頭からスイスのバーゼル/ジュネーブの時計見本市や時計ファクトリーを取材し、執筆を続けていらっしゃいます。そんな山本さんが、初めて自分で購入し、今も大事にしている時計とは?

Q1.愛用している時計は?
ブランド名:ハミルトン
シリーズ名:カーキ フィールド
Q2.愛用している時計を迎え入れたときのエピソードを教えてください。
20歳か21歳のときに、当時、渋谷パルコの坂を下ったところにあった「バックドロップ」で購入しました。バックドロップは、中学生のときから愛読していた『MEN’S CLUB(ハースト婦人画報社)』や『POPYE(マガジンハウス)』の街特集でよく取材されていた、”渋カジ”の代名詞のような店。岡山から上京し、ワクワクしながら店に向かったのを今でも覚えています。スニーカー、フィールドジャケットにラッセルのスゥエットシャツなど、アメカジの王道アイテムが並ぶ中に、「ハミルトン」の腕時計を見つけ、初めて自分で購入しました。
Q3.愛用している時計の気に入っているところは?
アメリカンカルチャーに大きな影響を受けた身としては、アメリカにルーツを持つ時計はマストハブ。ハミルトンのカーキフィールドは、ミルスペック(米国における軍用品の調達規格)に準拠したタフな時計。手巻きの機械式ですが、長い間メンテナンスをせずとも問題なく動いていました。
ケースのサイズが、34mmと控えめなところも、アンティーク感があって気に入っています。視認性の高い3針も◎。オリジナルのリボンベルトはカーキ色ですが、気分やその日の装いに合わせて変えています。
Q4.普段はこの時計を、どのようにつけていますか?
オフタイムのカジュアルなスタイルにつけることが多いです。休日のニットやシャツスタイルのほか、今日のようなニットジャケットのときに合わせています。
海外出張のときには、例外としてスーツにもつけます。タフなシチュエーションでも頼りになりますし、クオーツ時計は止まってしまったら電池交換に時間を要します。そして、自動巻きの機械式時計は、知らない間に止まっていることも……。そんなリスクを回避するべく、海外出張のときは、腕につける前に手で巻いて動かすことで、正確に時間を知らせてくれる手巻きの機械式であるこの腕時計を必ず持っていきます。
Q5.次に欲しいと思っている時計は?
ブランド名:グランドセイコー
シリーズ名:メカニカルハイビート36000 GMT
岩手県・雫石にある、グランドセイコーのファクトリーに、取材で訪れる機会が何度かあり、その度に、誠実なモノづくりに感銘を受けています。グランドセイコーは、機械式時計の精度を決めると言っても過言ではない、ひげゼンマイまで含めて全てのパーツを自社で作っているのです。最近では世界中の時計愛好家から注目を集めていて、海外の時計専門誌のランキングでも上位にランクインするほど、人気が高まっているようですね。
魅力的なシリーズがたくさんありますが、その中でも気になっているのが、「メカニカルハイビート36000 GMT」。3つの異なるタイムゾーンを表示することができるので、海外への旅や出張が日常に戻ってくることを願いつつ、この時計を手にできたらと思っています。
Profile

服飾ジャーナリスト
山本晃弘
『AERA STYLE MAGAZINE』エクゼクティブエディター/WEB編集長。『メンズクラブ』で編集者のキャリアをスタートしたのち、『ELLE a table』(現 ELLE gourmet)『GQ JAPAN』『AERA STYLE MAGAZINE』の3誌を創刊。2019年にヤマモトカンパニーを設立し、創刊より11年間つとめた『AERA STYLE MAGAZINE』編集長を退任し現職に。編集、執筆、広告制作などを行うかたわら、ビジネスマンや就活生に着こなしを指南する「服育」アドバイザーとしても活動中。執筆著書に『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』がある。